「青野kamoso!会」設立提案書 Ver.2 (1)趣旨 本提案書は、地域で発酵食を研究するグループ「青野kamoso!会(仮称)」(以下、kamoso!会)を設立し活動することを提案するものです。 kamoso!会は地域の人々の和と地域の様々な農的、文化的資源を活用して発酵食を作り、食べ、そして地域の文化を創造する市民グループです。我々はそ の実践を以て新たな地域振興としての地域の活性化ならぬ熟成化を目指します。 kamoso!とは、原料に酵母を投入し発酵させる「醸(かも)す」という日本語を「醸そう!」という呼びかけにして、さらに新しい時代感覚で親しみやすく表記したものです。発酵食を自分たちで作ろう!という意味はもちろんですが、地域を原料、kamoso!会を酵母に喩え、会の活動によって地域全体に不思議で奥深い変化を起こし、多様性と持続可能性を持った新しい地域振興を実現させよう!とのメッセージも込めています。 (2)なぜ「発酵食を」なのか? ここ「ぶどうの里青野」にはなぜワイナリーがないのか?という素朴な疑問からこの構想は始まりました。ワイナリーとはワインを作る場所です。ぶどうの産地にはたいていワイナリーがある、これは世界の普通です。しかし「ぶどうの里青野」にはワイナリーがありません。よって、ぶどう農家をはじめ、我々はぶどうの産地の地域住民としてワインを飲む習慣もありません(個人の嗜好は別として)。これはたいへん残念なこと、もったいないことなのです。 ワインとはぶどうをつぶして発酵させた飲み物ですが、発酵自体は微生物によってなされる生命循環の要であり、普遍性のある重要な働きです。地域の暮 らしの中にそれを活かすということは、自然や生命のあり方と地域に暮らす人々の生き方をつないでくれる、共通言語のごときものです。それゆえ、ワインとは 単なるアルコール飲料ではなく、地域の農作物であり、地域の文化であるといわれるのです。 発酵食はもちろんお酒類だけではありません。味噌、パン、チーズ、そして多くの漬け物類など、それらはすべて微生物の働きによって作られる発酵食です。特に我々にとって身近な味噌や漬け物、あるいは酢、醤油が先祖代々の伝えてきた食べる知恵の結晶であることは、科学の力を借りるまでもなく、我々にとって疑う余地はないでしょう。 しかしそのことはあまり深く自覚されていないのではないでしょうか。 我々はこれらの食品が行きつけのスーパーのどこの棚に並べてあって、大体いくらぐらいするものかはわかっているかもしれません。たとえ初めてスーパーでも、納豆がどこにあるか、2分もあれば大抵そのコーナー(とうふやあげのおいてある側)にたどり着けるでしょう。 では、多少の特別な知識や技術、そして時間は必要ですが、果たして我々は自宅で味噌を作れるでしょうか、自らの手で何種類の漬け物を作ることができるでしょうか、ちゃんと農村に暮らしてきた先祖の知恵や技を受け継いでいるでしょうか。パンやチーズなどは外国の食べ物だと考えている人も多いかもしれません。しかし、ワインがその地域にとっての農作物であり地域の文化となるなら、地域で作るパン、チーズ、そして味噌や漬け物も同じく地域の文化となるはずです。 そして何より、よく知られるように、発酵食は身体によい作用をもたらすと言われています。もっとも、科学の力が発見される遥か以前から、我々の先祖は発酵食を食べて、よりよく生きてきました。最も重要な例を挙げるとするなら、原発事故にともなう放射能汚染をはじめとした環境問題が極めて深刻な時代においても、その効能は驚くべきものがあると考えられています。すなわち、放射線障害の防御作用があるものとして研究されているのです(科学の力を過信した 科学自身の責任において)。 先祖から伝わった発酵食の知恵を、地域の文化として我々の生活に取り込み、この極めて困難な時代を生き抜くための、我々と我々に続く子孫にとって意義のある真剣な取り組みを始めなければなりません。kamoso!会はそれを担おうとしています。 (3)なぜ「青野で」なのか? 農作物であり地域の文化である、とはどういうことでしょうか。それはこの地でいかにして作物を作り、食べ、以て我々はいかにしてこの地域をよりよく生きるのか、ということを考えることができるということです。 例えば、我々の地域を支える産業としての「ぶどう」。他者が作った基準に従って工場のようにぶどうを作り続け、単に都市経済に流通させる商品、消費物として扱うことだけでは、「ぶどう」は地域の文化にはなりません。我々はそのような仕事からいくらかの収入を手にする事はあったとしても、この地に生きる意義を見いだすことはできません。このまま続けていても、地域は疲弊するばかりです。それは既に現実ではないですか? 行政の地域振興という課題において、青野地区は間違いなく優等生の扱いです。「ぶどうの里」を盛り立て、地域のイベント事も他地区に比べて盛んであることは間違いないです。人々のコミュニケーションも開かれて明るい地域性は疑う余地がありません。よって、我々の外見を批判するのは極めて困難です。 しかし、それは不幸な事かもしれません。時代が持続可能性を求め始めて、もはや内情に目をつむれなくなってしまいました。ぶどう作りを担う者の高齢化は著しく、かつ継承する者が不足している、これは我々の共通認識であり、10年、いや5年先の地域に何がおこるのか正しく想定できない切羽詰った危機的な状況です。 このことは何を意味するのでしょうか。それは単にぶどう農家になることが経済的に有利でないから、ではないでしょう。だれもお金のためだけに生きていこうとは思っていません。ぶどう作り、農家の仕事、農村での暮らしそれ自体が生き甲斐となる、その重要なところが伝わっていないのではないでしょうか。大げさではなく、それは絶望的です。 仮にワイナリーを構想するとしましょう。日本でのワイン作りに適した品種「マスカット・ベリーA」を、その生産が西日本有数だった「ぶどうの里青野」以上に上手く作れる地域は他にありません。多くのベリーAの木は伐られ新しい品種に切り替えられており、ある意味危機的な状況ではありますが、1つの小さなワイナリーを成立させる分にはまだ十分なベリーAの木と、そして青野を憂う熱心なぶどう農家が残っているはずです。この構想に賛同することを動機に、すなわち地域の文化の担い手として、新たにぶどう農家になる人もいるかもしれません。 今こそ、なぜこの地で生きるのか、真剣に考え、地域をリードしていかねばなりません。ワイン作り、ワイナリー作りは1つの小さな例に過ぎません。重要なことは、地域で様々な発酵食を作り、食し、そこに見えてくる新しさ奥深さを感じ、自らの手で地域の文化を創造し発信していくことです。しかもそのことは現行の「ぶどう」産業を何らじゃましないどころか、地域に革新性、多様性をもたらすのです。 そのためにも、kamoso!会は必要です。発想の転換をすべき時です。ぶどうを、箱詰めされた一房の果物とだけ考えるのではなく、この地域を育てた昔ながらのぶどうを使って自らの手でワインを作ること、あるいは他の農作物を発酵させて、我々の毎日の食のあり方を変化させること、それらがきっと、こ の地で、別の、もうひとつの、生き方を発見することになるはずです。 kamoso!会は意義深く、重要な活動をしようとしています。 (4)地域ブランドとkamoso!会 kamoso!会は「青野」を地域ブランドとして熟成化します。 青野地区は基幹産業としての「ぶどう」、その象徴としての「葡萄浪漫館」を抱え、また青野公民館や青野走ろう会などの各種団体が様々な行事を催す中で地域住民が協力し合い、そしてそれらにより多くの来訪者を迎えて来ました。活性化の旗印の元、まさに期待される地域として20世紀から現在まで突っ走ってきたのです。しかし、長い低成長時代に入った中で、本当は息切れしているのではないでしょうか? やはりここでも発想の転換が必要なのです。これからは活性化ではなく熟成化です。我々は大きなイベントをも成し遂げられる頼もしい地域資源を持っています。これからはそれらを色々とより繊細に組み合わせたり、必要に応じて新しい資源を取り入れたりしながら、地域の質を高め、ひいては地域の価値を絶えず更新していく時代に入るのです。 kamoso!会は、特に食の分野から「青野」を地域ブランドとして熟成化します。青野といえばぶどう、ぶどうといえば青野、地域においては確かにそういう図式はあります。しかし、それだけでは地域ブランドとは言えません。多少厳しい言い方ですが、食に関しては「青野にはぶどうしかない」のです。 その意味は2つあります。 まず「一房の果物として食べるだけのぶどうしかない」、一部ではワインの原料として生産しているのにも関わらず、地域にはなぜかワイナリーがないのです。そんなぶどうの産地は世界中を探しても見当たらないでしょう。地域にワイナリーがないのは、既得権や資本の力によって、地域から発酵文化が奪われて いるからです。もちろんこれは青野の問題だけでなく、広く日本全国に共通した問題です。そして我々自身も「ぶどう」を消費物としか考えられない。それでは いけない。つまり、反省の意味を込めて「ぶどうしかない」のです。 もう一方の意味、つまり未来に向けて残された道もまた「ぶどうしかない」のです。「ぶどう」を外して青野地区の地域振興はあり得ません。しかし、も はや単独の産業として縦に伸ばしていくことはできないのです。どうにか幅を広げねばなりません。狭い産業の枠さえも越えねばなりません。 「ぶどう」を発酵させワインを作り、あるいは発酵の働きに親しみさらに他の作物を発酵させ、我々自身の食から変革を起こしましょう。「青野」はこれ から、多様な食の発信地として地域ブランドを確立させていくのです。そのしっかりとした基盤をkamoso!会が開拓するのです。 (5)観光とkamoso!会 kamoso!会は「青野」自身のための観光を構想します。 観光とは他国や地方の景色や史跡・風物などを見て回ることです。「葡萄浪漫館」が井原市の観光ポイントだとして、では、観光客は何を見ているのかと いえば、ビニールに覆われた山肌と、箱詰めされたぶどう、そしてその箱を持って並ぶ自分たちの姿だけです。それらが風物という地域とは、なんと貧しい観光地でしょう。しかも見て回る、その「回る」ことは「葡萄浪漫館」だけではできません。青野は観光ポイント、文字通り観光の通過点に過ぎません。 もちろん、年間通して一時とはいえ「葡萄浪漫館」への来場者の数は無視できるものではありません。ですから「葡萄浪漫館」もあるが、ゆっくりできる◯◯もある、本来そうなってこそ観光地となるのです。当然、ぶどうとは異なる時期にも、人を招き入れることも必要です。 ここで我々は同じく井原市の美星町「星の里青空市」を思い出すかもしれません。 美星の青空市は年中賑わっています。その理由は簡単で「すべてが揃っている」。青野の「ぶどう」のようにメインの農作物はないが、野菜、果物、肉類、乳製品など、あらゆる食材を地元で揃えることができます。これは美星という地域で、長い間、そして今もなお、様々な農業分野がバランスよく地域に存在 しているからできることです。その特徴(デパート型)を活かすように、飲食店も展開されています。 青野でそのようなデパート型の産直施設をイメージするのは無意味です。無い物ねだりというものです。青野は青野の特徴を生かして、観光資源を固有に展開するべきです。これ以上「葡萄浪漫館」あるいは「ぶどうの販売」へ一極集中する依存体制は決して得策ではありません。新しい観光を構想するなら、相乗効果を上げるような展開を別の視点から模索するべきです。 ワイナリーを作るべきだ、と何度も書きますが、だからといって青野で作るワインを売りたいがために、青野ではそのワインしか飲めないのではだめなのです。地元で作るワインがあり、日本の大先輩のワインがあり、世界のメジャーなワインがある、そういうお店に、地元で作る発酵食がつまみに出る、例えば、そういう発想でお店を構想しましょう。 お客様はいろんなワインを飲み比べながら、青野のワインの成長、進化を楽しんでくれるかもしれません。あるいは、地域で取り組む発酵食のワーク ショップを案内すれば、きっと興味を持ってもらえます。食で地域文化を創り出そうとしている、取り組みそれ自体から、青野に興味を持ち、訪れる人も必ず出 てきます。 これらは、青野の名産「ぶどう」からの展開ですが、まったく違う動機で青野に人が来るようになるのは必然です。その人はすでに青野にとっての顧客かもしれないですし、新しい観光客かもしれません。そして、全く異なる視点から「ぶどう」のことを知っていただくことにもなります。そして何より「ぶどう」 を単なる消費物としてしか考えられない、貧しい発想から、我々自身が抜け出すことができます。 観光客を快く迎え入れ楽しませようとするための取り組みは、翻って、心地よくその土地に暮らすことを求める自分たち自身を発見することになるでしょう。 (6)雇用あるいは定住とkamoso!会 ここで書いてあることを実現させようと気運が高まった時には、知識や情熱を持ったより多くの人間が必要となっているでしょう。 事務局(ワークショップのコーディネーター、デザイナー、通販係)、ワイナリー(ワイン用ぶどうの農家)、パン屋(小麦栽培農家)、チーズ屋(酪農家)、漬け物屋(野菜栽培農家)、味噌屋(穀物栽培農家)、飲食店(ワインに詳しい店長、店員)など、様々な食品製造業、あるいは農家が必要です。それら は地域に新しい雇用を生み出すはずです。 ただ、少量のワインとそのつまみの漬け物を作る程度と考えるなら、いずれも大きな規模でなくてもよいのです。また、地域にまず必要なのは専門性に長 けている人というよりも、むしろ地域文化の担い手という意識が高い人が求められるでしょう。場合によっては、彼らは新たに青野に定住することを前提に、人生を設計するかもしれません。 3.11以降、どこにどのように暮らすのか、何をどのように食べるのか、というのは、東日本に暮らしていた人々に限らず、普遍的に重要な問題となっています。我々が他者に向けて「ぜひ青野へ!」と本気で声をあげ、迎え入れるには、どうすればよいでしょうか? どうか、今ここでkamoso!会を提案する意義を、しっかりと読み取って欲しいと思います。 (7)活動内容 以上のような地域の現状と時代に即したコンセプトの上で、次のような活動を想定しています。 1、会員は地域の農作物を使って、自ら発酵食を作り、食べる。 2、会員相互に家庭の発酵食を交換する試食会を開催し交流をはかる。 3、会として発酵食品を企画製造し、葡萄浪漫館などの地域の産直施設やWebサイトなどで販売する。 4、様々な発酵食を作るワークショップを開催し、会員や地域外の人々との交流を図る。 5、地域に発酵食を楽しむお店を構想する。 6、地域にワイナリーを構想する。 7、会の活動をWebサイトなどで広く発信する。 (8)本提案に関する問い合わせ先 提案者:仁城亮彦(野良芸術研究所「なごみLABO」主催、京都造形芸術大学非常勤講師) 住 所:〒715-0012 岡山県井原市青野町1520 電 話:080-1942-0825 FAX:0866-62-4386 メール:labo@nagomifarm.jp TwitterID:nagomilabo Facebook:仁城亮彦 Webサイト:なごみLABO http://labo.nagomifarm.jp |